わが国のオープンガーデンの現状と課題
わが国のオープンガーデンの現状と課題
2011年3月 森下一義(伊豆ガーデニングクラブ代表)
私は1998年からオープンガーデンを実践している静岡県伊豆東海岸を中心とする「伊豆オープンガーデン」グループの創設者の1人であり、現在も参加庭の一員です。
その立場から我が国の「オープンガーデン活動」の現状と課題を考えてみました。
1.「オープンガーデン活動」の定義
2.オープンガーデンの分類
3.「公開の目的」の重要性
4.「オープンガーデン活動」に必要なもの
5.今後の課題
1.「オープンガーデン活動」の定義
「オープンガーデン」の定義については、英国NGS(The National Gardens Scheme)の活動を淵源に求めたり、日本の現状を調査分析したりする識者の論文はありますが、権威のある統一された定義はありません。
定義もなく全国組織もないので、どれだけのオープンガーデン活動があるのかも不明ですが、私は100ヶ所程度と推定しています。
これから述べる定義は、オープンガーデンの実践者・組織者である私の考える定義です。
(1)個人の庭をグループで広く一般に公開する社会活動である
「私はどなたにもお庭を見せていますよ」「庭先に“公開中”“どうぞご覧下さい”の看販を掲げています」―こういう活動がありますが、それは個人活動であり、社会活動ではないと考えます。
公共施設や営業施設の一部を公開するケースは、オープン力一デンであるかもしれませんが、それは「オープンガーデン活動」ではありません。
音羽の鳩山御殿とか。どこかの料亭の庭とか、個々に独自に行なっている公開も「オープンガーデン活勁」ではないと考えます。
(2)公開していることの告知活動がなされている
公開の告知がないとオープンガ-デン活動としては無意味です。広く一般に知ってもらってこそ活動となります。
個人の庭が公開しているごとをどうやって社会一般に知ってもらうか、非常に難しいことです。鳩山御殿などよほど大きな由緒のある庭か、秀でた庭でないとマスコミは取り上げてくれません。個人が有料で広告を出すことまではできなでしょう。
結局有効な告知活動をするためには「オープンガーデン活動」はグルーブ活動が必然となります。名もない個人の庭であっても、何軒もの庭が見られると思えばこそお客さまは来て下さいますし、マスコミも報じてくれます。
(3)庭主自ら保守・管理している庭である
庭帥やガーテナーが保守・管理している庭は「オープンガーデン活動」の定義からは外れるでしょう。オーブンガーデンの訪問客はそのような庭を求めて訪ねてば来ません。個人の庭の多様な工夫を庭主と語り合って楽しみたいのです。公共施設の公開が外れるのもこの理由によります。
2.オープンガーデンの分類
オーブンガーデンの定義がないくらいなので,いろいろな形のオープンガーデンかあります。
ここでは「運営主体」「公開目的」「公開期間」「その他」のフェーズから見てみましょう。
(1)運営主体による分類
①行政主体
行政が主体となって活動が進んでいるケースです。
行政主体で始まっても自主運営に変わっていくケースもあります。
表面だけ○○実行委員会みたいな形にすることもあります。
いずれにしろ行政主体は予算次第で活動が左右されます。
②参加者主体
花好きな人たちか集まってオープンガーデンを始めるケースです。
推進力のある中核の事務局が必要です。
③組織者主体
自分の庭を公開するのではなく、オーブンガーデン活動を援助し推進する人たちによるケースです。かって東京でその活動がありましたが現在は途切れているようです。
行政主体はこの形に似ています。
④企業後援
まれに企業がオープンガーデンの運営をバックアップしているケースがあります。地域のマスコミだったりナーセリーだったりします。
(2)公開目的による分類
①地域振興,
花弁生産振興、花の消費拡大、観光客誘致など経済的動機を目的とするものです。
②花好きが集まって
庭を作っている人たちが集まって公開するケースです。他人に見てもらえぱこそ励みになるし庭のレベルが上がります。
③チャリティー
本場イギリスではまずチャリティーの目的があって,その手段として庭の公開が始まりました。
わが国でもチャリティーを目的として始めたブル一プもありますが、全体としてチャリティーは馴染みが少ないです。
(3)公開期間による分類
①地域の花フェスタなどに協賛してその期間中だけ公開するもの
②春秋など花の盛りの時期に公開
③通年のもの 伊豆オープンガーデンは最初から通年公開を目指しましたが、庭主の負担は重いです。
(4)その他の分類
①入場料
チャリティーを含め、入場料をとるかとらないかが一つの分岐点になります。
行政主導の経済的動機に基づくオープンガーデンが増えた現在では無料が相場になっていますが、オープンガーデン初期にはいろいろ意見がありました。伊豆オープンガーデンではこのことを巡って当初大論争があり、組織の分裂騒ぎまでありました。現在は営業バスに限りバス会社から1人300円を頂いています。クラブの収入になり各庭への配分はありません。
個人訪問や花の会などの団体バスからは頂いていません。
②庭の規模(広さ)
個人庭が前提なので自ずと限界はありますが、やはり広さにより庭の趣きが異なります。
都会の分譲地(70~100坪)ではどうしてもエントランスガーデンで.草花主体になります。200~300坪では1人での維持は困難で、ご夫婦の協力が必要になります。500坪になると専門家の助力が欲しくなります。
③庭の地域分布
歩いて巡れるほどの地域から、他県にまたがるばどの広域まで、いろいろあります。
④入場資格
才-プンガーデンが始まった当初は「知らない人が来るのは怖い」という参加庭の要望で会員制をとるオープンガーデンが多くありました。
今では会員制は少なくなりましたが、バンフレットの購人など条件をつけているところもあります。
3.「公開の目的」の重要性
何のために公開するのか、オープンガーデン活動を継続するにためには目的をはっきりさせておくことが非常に重要です。
「市が推進していることだから」「地域に役立つのなら」、これらも立派な理由になります。
問題は花好きが集まってのオープンガーデンです。「庭や花が好きだから」「友達がやっているから」「楽しそうだから」で始める人が多いのですがそれでは長続きしません。
長くやっていると誰もが年をとり、疲れてくるし飽きてもきます。その時に目的があやふやだと簡単にやめてしまいます。原点の「公開の目的」が重要になります。
オープンガーデン活動の継続で最大の問題は公開のモチベーションの維持です。
伊豆オープンガーデンの場合、「庭仲間との交流を広げる」「多くの人に花を見てもらう」「地域への貢献」を規約に明記しています。
4.「オープンガーデン活動」に必要なもの
(1)「参加規約」
オープンガーデンの参加庭を募るためには規約づくりが必要です。「参加規約」があってこそ募集が可能になります。前項の「公開の目的」もここに入ります。
・「参加庭のレベル」は難しいところです。参加を多くするためには条件を緩くしたいのですが、最近はお客様の目が肥えてきて厳しく見られます。特にバス代を払って来られるお客様からはクレームを聞かされることもあります。
一方、公開してからめきめきレベルを上げるお庭も多いのです。
伊豆オープンガーデンでは参加庭と、バス巡回庭を分けて考えています。
・「名前の公開」 参加した場合、名前・住所・電話番号が公開されることを規約に書いておいた方がいいでしょう。それなしでオープンガーデンになりません。
<難しいことは言わないで><仲良しクラブでいいではないか>では責任を持った社会活動になりません。
(2)「訪問規則」
お客様に守ってもらう「訪問規則」も作っておきましょう。
エチケットだけでなく、訪問方法、訪問時間、人数制限、トイレ問題、団体受入れ要領など定めるべきことはいろいろあります。
(3)広報の手段
広報なくしてオープンガーデン活動は存在しません。
①庭案内,地図,チラシなど印刷物の作成
説明資料を作成することで活動の内容が明確になり,多くの人への告知が可能になります。参加庭のみんなで制作しましょう。
<誰が,何をつくるのか><今年はどの庭がどういう条件で参加するのか><資料は何部つくるのか>、写真,地図,締め日,費用など綿密な役割分担が必要です。
伊豆オープンガーデンの場合,毎年400部つくる冊子「お庭案内」の作成が最大の行事になっています。原稿をつくり,コンビニでコピーをとり,皆で集まってホチキスで留めて作成する。費用は参加庭で分担する。発足以来行政の補助はまったく受けていませんが,最近はコンビニでコピーする部分だけは市役所の印刷機を使わせてもらっています。
②ホームページ
いまどきの活動にホームページは不可欠です。これを費用を払って外注するようでは先行きは暗いでしょう。会員で自作しましょう。
参加庭の情報を提供する意味では,ブログよりホームページの方がいいと思います。併用もいいかもしれません。
③庭先看板
はるばる訪ねて来た客に「ここがオープンガーデンだ」と安心していただくために庭先看板は必要です。
統一してすてきな看板をつくっているオーブンガーデンもありますが,伊豆の場合はロゴだけ指定して各庭がそれぞれに作成しています。
④広報委員
マスコミ対策のために広報委員は重要な役職です。伊豆オープンガーデンでは専任の広報委員を委嘱して常に新聞・雑誌・TVなどへの広報を心掛けています。
(4)庭巡りの手段
公共交通機関の駅前から歩ける範囲に公開庭があるのなら,オープンガーデン側で考えることはありません。しかし普通はそうではありません。マイカーを全員に期待することはできません。
オープンガーデンを客に見ていただくためにはその手段を提供する必要があります。
①案内資料の作成と配布
案内資料,地図をどこで人手できるかの広報と,電話・メールでの問合わせ・請求に対応する体制が必要です。
昔は新聞に記事が出た朝はトイレに行くことも出来なかったものです。
②公共交通機関とマイカー対応
遠くの地からいらっしゃる当地に不案内なお客様の立場になって研究しておく必要があります。説明の仕方も要研究です。
伊豆では公共バスを乗り継いで多くの庭を巡るのは事実上困難です。ではどうしたらいいか。
オープンガーデン開始当初,マイカーを先導案内したりしましたが,とても危険なのでやめました。
③庭巡りタクシー
伊豆ではタクシー会社と取り決めて,コース別固定料金の「庭巡りタクシー」を運行してもらっています。
④大型バス受入れ対応
各地の「花の会」などが大型バスで来る場合があります。JTB,KNT,はとバスなど営業バスの訪問もあります。
伊豆では道路状況と庭の状況から大型バスを受け入れられるのは数庭に限られます。多くの庭を見たいなら小型バスでの来訪をお願いしています。
⑤バスガイド配備
バスには必ず伊豆ガーデニングクラブの会員が道案内および庭の説明をするガイドとして同乗するようにしています。(有料)。
⑥チャーターバスの運行
伊豆では一時期,クラブでマイクロバスをチャーターしてお客様をご案内していました。好評で1日に5台も運行したりしました。しかし大勢の人手がかかり,事故などの危険負担もあり,あまりに大変なのでやめました。
⑦営業バス「庭巡りバス」の運行
よそでは行政の援助により1,000円程度でオープンガーデン巡りのバスを運行している地域もあるようです。花フェスタなどの期間限定が多い。
伊豆では6年前から地元の東海バスが「庭巡りバス」を運行しています。大変好評で,年間20便以上で毎回ほぼ満車になります。市の補助はありません。必ず会員のガイドが乗り.TEAS(庭でお茶・ケーキ)が付いて3,400円です。
(
5.今後の課題
「オープンガーデン活動」は組織運動であり,組織には必ず新陳代謝があります。公開した庭がいつまでも公開し続けることはありません。
伊豆の場合20数庭が参加しますが(今年は26庭),毎年数庭がやめ,数庭が新たに参加します。一度やめて,また参加する庭もあります。13年前発足当初から継続しているのは10庭未満です。
オープンガーデンは楽しいことですが,やはり年をとって身体がきつくなったり,疲れたり,飽きたりします。入れ替わることを前提に活動を継続しなければなりません。
継続していくためには次のことが必要です。
(1)「公開の目的」を明確にする。
(2)事務局の新陳代謝をはかる。常に新人を補給するのがよい。
(3)常に公開庭のレベルアップをはかる。
(4)オープンガーデンだけでなくガーデニング全般の活動によって新規参加庭を常に開拓する。
(5)将来の課題として大型庭の有料化を検討する。
2011・3・8 森下一義(伊豆ガーデニングクラブ)